B18) 書評「どんな数にも物語がある」

 久しぶりに、好奇心を刺激される本を読んだ。「どんな数に物語がある―驚きと発見の数学」、アレックス・ベロス著、水谷淳訳、発行SBクリエイティブ、定価2200円+税である。全10章からなるこの本は、各章ごとに別々のテーマが選ばれており、ギャンブルや2000円札、地図や車、金利やお見合い、コンピューターゲームや遊園地のローラーコースターなど、日常生活の話題から、次第にその中に潜んでいる数学の話に発展してゆく。そしていつのまにか、オイラーの公式や、人工生命のような、不思議な数学の世界に引きずり込まれる。
画像 
 僕が特に興味を持って読んだのは、第7章の「ネガティブ思考のポジティブな力」である。ここでは、複素数の話から、オイラーの公式、そしてマンデルブロ集合の話に発展、果ては、宇宙創造のメカニズムを連想させるマンデルバルブがコンピューターよって出来るという話で終っている。

 複素数a+biのⅰは、マイナス1の平方根だということくらいは知っていたが、自然対数eのπⅰ乗がマイナス1に等しいというオイラーの公式にいたっては全くのチンプンカンプンであった。数年前、小川洋子氏の小説「博士の愛した数式」を読んで、オイラーの公式を知ったが、eとπと言う二つの無関係な無理数が、虚数のⅰでつながって、何故実数のマイナス1になるのか不思議に思っていたが、それがこの章を読んで、なんとなく解かったような気になった。

 複素数が物体の回転を表すのに便利な道具であることも、この本ではじめて知った。横軸が実数、縦軸が虚数を示す複素数平面では、ⅰは回転の位置を示す。言ってみればX軸は1次元の座標だが、ⅰ軸は現実世界から虚数空間に張り出した2次元目の座標である。現在では、ⅰ、j、kと言う3つ虚数空間を持つ、A+Bⅰ+Cj+Dkと言う4元数が、飛行している物体の3種類の回転軸(ロール、ピッチ、ヨー)をコンピューター解析するのに使われているという。また、弦理論の解析には、8元数が使われる可能性があるらしい。そういえば、弦理論は幾つもの次元を想定した理論である。
画像
 複素数C=A+Biを2乗してCを足し、それを新しいC2として二乗してCを足してC3を作る。これを永遠に繰り返しても発散しない複素数Cが作る集合をマンデルブロ集合と言う。この単純な操作の繰り返しが、複雑なフラクタル図形を作る。上の図はこの本の223ページにあるマンデルブロ集合とその部分拡大図の例である。また、下の図は、この本の見開きにある、マンデルバルブと呼ばれる、3次元プラス虚数空間で作られた、マンデルブロ集合である。単純なものが、僅かな変化をしながら、虚数空間と実数空間の間で、単純な回転を幾億回も繰り返すことによって、この複雑な宇宙の形成がされたのではないかと思わせる事象である。この本には書いてないが、最近の弦(ひも)理論や、素粒子論の発展を見ていると、プレーンの境界で回転している素粒子が、宇宙の始まりだということになるかもしれないなと思った。

 このマンデルブロ集合は、コンピューターエンジニアの、遊び心から見出されたという。孫達がコンピューターゲームを楽しむのも、将来の発明発見につながるかもしれない。次の世代に期待しよう。

 この本の他の章には、奇数が男で、偶数が女だという、数に対する人間の反応心理の話を始め、ガウディの建築は、チェーンを吊り下げた形(=カテナリー)を逆さにしているだとか、面白い話も多いので、理系の皆さんには是非一読をお勧めしたい本である。最初の5章までの、三角測量や円錐曲線やサイクロイド位なら、中学生の数学の知識で十分理解できそうだ。また大学の理系程度の知識があれば、この本の付録説明も、興味深い資料だろう。



"B18) 書評「どんな数にも物語がある」" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント