若冲(2)動植糸采絵の修復

 この「糸采」(さい)という字、僕のワードでは出てこないので、2字で作ったが、この字は中国語辞典を引くと「アヤ絹」の意味。動植物を織りなした絵の意味だろうか。

 1999年(平成11年)から6年間をかけて、文化財保護事業の一環として、若冲の代表作である「動植糸采絵」全30幅の修復が行われた。この絵は、若冲が京都・相国寺に寄進し、本堂の釈迦三尊像の左右両側に荘厳画として飾られていたが、明治の廃仏棄釈で、財政危機に落ちいった相国寺から皇室に献上され、その下賜金で相国寺の財政危機が救われたという。現在は宮内庁三の丸尚蔵館の所有になっている日本の宝である。

 この修復に先立って、「動植糸采絵」が相国寺に里帰りして、本堂の釈迦三尊像わきに、江戸時代と同じように展示された。照明の具合でどう変わるか確認するのが目的の展示で、一般にも短期間開放された。「動植糸采絵」については、断片的に見ていたが、全幅一度に見たのは、この展覧会が始めてで、感激した思い出がある。

画像

 また、修復が完成した2006年には、皇居東御苑にある三の丸尚蔵館で全30幅が何回に別けて展示された。この修復完成記念展覧会の会場で、この修復についてのレポート(写真)を手に入れた。修復によってわかった裏彩色の様子、肌裏紙の効果、使われた絵の具の分析など、表面からだけでは判らなかった若冲の技巧が明らかにされている。

 裏彩色と言うのは、絹に書かれた絵には、古来時折見かけられる技法で、表面だけでなく、裏面にも彩色を施すことである。この裏面の色が、織物の目を通して表面に反射し、より深みのある様になるというもので、表の色と裏の色が異なる場合もある。また、絵の具の剥落を防止する効果もあるという。

 絹に書かれた絵を軸装する時には、絵絹の下に紙を挟む。この紙を肌裏紙と言う。この紙の色も、裏彩色と同じような効果があって、絵全体の色調に影響がある由。「動植糸采絵」の肌裏紙は薄墨を佩いた様な暗色で、絵を落ち着いた物にしているという。因みに一般の肌裏紙は和紙の色そのもだという。こんな所にも若冲のこだわりがある。

 彩色の分析は、1000ポイント近くの場所に蛍光X線分析で行われた。

 このレポートには、「動植糸采絵」全30幅のカラー写真が30ページあり、加えて裏彩色のカラー写真もある。僕にとって、このレポートは、若冲を理解する鍵になった。僕の宝物かな。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック