第2章 3)食事への道 (腹筋の回復)

画像 宇宙から帰還する飛行士達は、回収カプセルから降りると、担架に乗せられて運ばれる。健康な身体で、訓練をつんだ宇宙飛行士でも、ほんの短い期間、無重力状態で過ごしただけで、筋肉が弱って歩けなくなる。どうやら、病気で、10日間も、意識朦朧として天国を彷徨って来ると、無重力の宇宙を旅行したのと同じ事になるらしい。使わないうちに筋肉が落ちてしまって、地球の重力に逆らって、起き上がる事が出来なくなる。まさに宇宙からの帰還である。

 ベッドの上で身体を起こして、重力に抗して、上体を保てるようにする訓練が始まったのは、まだ、僕の腹筋が殆どなくなって、寝返りすら打てない頃である。看護婦さんたちが、ビクともしない僕を、どうやってベッドから車椅子に移動させたのか、全く記憶にない。しかし、看護婦さんが二人がかりで動かしてくれた事だけは、唯一、記憶に残っている。そして、僕は車椅子に縛り付けられ、時間の来る迄放置された。その時間は、30分から2時間まで伸びていった。

 意識の回復と共に、栄養補給のチューブと平行して、口からの流動食も始まった。電動ベッドを起して、背もたれにし、上半身を立てる。寝たままでは、誤飲の危険が大きいので、食事は出来ない。起き上がった状態を保つための、腹筋の回復は、口から食事をする為の必要条件である。幸いにして、麻痺していない左手で、スプーンは使える。

 総合病院からリハビリ病院に移る10日ほど前には、腹筋も大分回復したので、車椅子で食堂に行き、食事を取れるようになった。もちろん、車椅子には、お祭りの山車さながらにチューブや瓶がぶら下がっている。それでも、ベッドから一時でも離れて、廊下の空気が吸えたのは嬉しかった。

 この頃になると、ベッドから車椅子への移動は、必ずしも二人の看護婦さんではなくなった。ベッドと一緒に上体が起され、足の向きが直されて、膝から下がベッドからはみ出すようにされた。そして、看護婦さんに、上体をあずけるように指示された。こうすると、回転力が働いて、僕のお尻が浮いて、看護婦さんが、僕を持ち上げて、移動しやすくなる。僕を、ベッド脇に置いた車椅子に移す時にも、僕と看護婦さんが、一つの軸で回転することで、重力を克服できる。でも、それには僕が上体を預けるための、腹筋の回復があったればこそである。

 写真は我が家の月、2010.12.23.

                       糖尿病と脳出血 第2章 脳出血で倒れた (糖尿病が原因?)

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